先日開催されたヴァンデ・グローブ(ヴァンデ県をスタート地点とする世界一周ヨットレース)では、水素産業の大手企業や関係団体が一堂に会しました。ヴァンデ県を含むペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は水素産業の先進地域であり、革新的な事業がいくつも展開されています。
海洋産業の脱炭素(炭素循環)化に必要なスキルを持つ企業や人材が集結しているペイ・ド・ラ・ロワール地域圏では、脱炭素化事業の推進に力を入れており、その成果がすでに実りつつあります。
ヴァンデ・グローブの大会期間中は、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏議会、Solutions&co、そしてポール・メール・ブルターニュ・アトランティック(Pôle Mer Bretagne Atlantique)により、水素や風力の普及推進を目的としたイベントが開催されました。本イベントには、船舶所有者、造船所、設計会社、システムインテグレーター、部品メーカー、保守管理および港湾運送会社、地方自治体、金融機関など、海洋産業のバリューチェーンの各分野を代表する80名以上の関係者が参加しました。
海上輸送の脱炭素化に貢献する革新的な事業
海洋産業向けの水素ソリューションをテーマとする討論会では、以下の5つの機関や企業を迎えて、域内産業の成果や課題、強みについて検討が行われました。
MEET2050:海洋産業の脱炭素化を促すために業界関係者間の連携強化に取り組む共同研究機構です。世界経済に不可欠な海上輸送が世界の二酸化炭素排出量の4%を占めている以上、海洋産業の脱炭素化は必須であると討論会では指摘しました。
同機構によると、水素燃料船の開発事業が全世界で92件(うち35件はフランスで)進行中であり、その中の10件以上(作業船、旅客船、貨物船)はフランス西部で展開されているそうです。
グリーン・コースト(Green Coast):船舶用合成メタノールの製造を目的とした域内の主要事業の1つで、ライフ(Lhyfe)とエリス・エナジー(Elyse Energy)の協業によって進められています。ライフはナント・サンナゼール港にグリーン水素の大規模製造事業者として選定されており、年間製造量は3万トンに及びます。このグリーン水素の95%を利用して、エリス・エナジーが15万トンの合成燃料を製造します。
両社によると、メタノールエンジンの普及に伴い約200隻分の発注がすでに入っており、今後は各地の港湾がエネルギー拠点として戦略的に重要な役割を果たしていく見込みです。
ヨーロッパ・テクノロジーズ(Europe Technologies):CIAMのブランド名で海洋産業の水素普及事業を多数展開している同社は、「海上および河川輸送の脱炭素化」「船舶内のエネルギー消費(船内電力)」「停泊中の船舶への電力供給(陸上電源供給)」「移動式水素貯蔵および輸送」という4つの重点領域を掲げています。さらに、現在進行中の事業として、次の4つの紹介がありました。
エステバン(ESTEBAM):水陸両用ムール貝養殖作業船の水素エンジン化
エムアッシュイグレック500(Mhy 500):漁船搭載型の移動式水素貯蔵・輸送ソリューション
オートモーター1 MW(Automoteur 1 MW):水素エンジンの搭載を伴う大型貨物船の改造
港湾船イリアス(Hylias):燃料供給ステーションと水素燃料電池船を組み合わせた自己完結型エコシステムの構築を目指す事業
アカジュール(Akajoule):ナント・サンナゼール港での大規模水素製造を目指すロワール川河口の脱炭素化事業に参加しており、港湾における水素事業の可能性についての調査を実施しています。
ソフレシド(Sofresid):事業の40%が脱炭素関連であり、次のような個別の事業も展開しています。
浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)
海洋エネルギーと水素を併用するソリューション
多目的水素燃料貨物船
将来性のある産業を待ち受ける課題
再生可能なグリーン水素は将来性のあるエネルギー源の1つですが、炭素系燃料と比較すると、依然としてコストがかさみます。域内企業が展開する各種事業により、解決策が存在することは実証されていますが、イノベーションを加速させるには適切な環境の整備が急務です。
ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏では、エネルギー転換や海洋産業の発展に水素が不可欠であるという認識のもと、水素が重点項目に設定されています。海洋産業の成長促進を目指す地域圏議会は、革新的な事業の支援や近隣地域圏との連携強化に取り組んでいます。例えば、グラン・ウエスト水素盆地(Bassin Hydrogène Grand Ouest)というプロジェクトでは、ペイ・ド・ラ・ロワール、ブルターニュ、ノルマンディー地域圏の提携が進められています。
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