ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏の水素産業の今とこれから:活発なエコシステムの展開と優秀な人材の育成

#全ての産業

クリーンなエネルギーソリューションへの移行が世界的に進む中、グリーン経済への転換の要となりつつあるのが水素です。ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は水素分野のリーダーとして頭角を現してきており、複数の水素エコシステムが展開され、人材育成プログラムの整備が進められているなど、諸外国の起業家の皆様にとってまたとないチャンスが広がっています。

ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は水素経済の牽引役としての地位を確立していますが、その背景にあるのは社会に大きく貢献している多様なプロジェクトです。こうしたプロジェクトの目的は、水素に特化したビジネスエコシステムの構築を通じて、公的機関や大企業、革新的なスタートアップ企業や教育研究機関を集約することにあります。

2つの主要な水素エコシステム:AdvancedH2ValleyとH2Ouest

2024年初頭、AdvancedH2Valley コンソーシアムの新しい取り組みがスタートしました。 これはペイ・ド・ラ・ロワール、サントル=ヴァル・ド・ロワール、ノルマンディー、ブルターニュの各地域圏にまたがる壮大なプロジェクトで、最大11.5MWの水素製造能力を新しく確保する計画です。

水素を動力源とするトラックや海上輸送手段の配備も予定されており、2年間で14,600トンの二酸化炭素排出量削減を目指しています。欧州クリーン水素共同実施機構(European Clean Hydrogen Joint Undertaking)から890万ユーロの助成を受け、プロジェクトの成功と拡大のチャンスを広げています。

また、域内の主要な水素プロジェクトとしては、2020年にスタートしたH2Ouestも挙げられます。モビリティ分野の完全グリーン水素化を推進するプロジェクトで、すでに公共バスや民間輸送などで32台の水素自動車が配備されているほか、域内初の水素ステーションネットワークが整備されています。

こうした成果を受け、H2Ouestは年間1,267トンの二酸化炭素排出量を削減し、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏のサステナビリティ目標の達成に大きく貢献することが期待されています。また、フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)の「水素モビリティエコシステム」の事業公募でも選定されています。

AdvancedH2ValleyとH2Ouestは、いずれも水素技術のイノベーションに対するペイ・ド・ラ・ロワール地域圏の熱意を裏付けるものであり、水素革命の一翼を担おうとする企業を域内に呼び込む原動力となっています。ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は水素製造の分野をこれからもリードしていく、それだけでなく、輸送や供給などの多様な領域を同時に担い、水素技術の世界的リーダーとしての地位を確立していくことを、この2つのプロジェクトは証明しています。

水素革命を支える優秀な人材の育成

ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は活発な水素エコシステムがいくつも展開されているだけでなく、水素関連の人材育成プログラムが充実しており、その網羅性の高さは国内トップレベルです。成長著しい水素産業で高度な人材の採用や育成を考えている企業にとって、これは非常に大きなメリットとなります。

2030年までに10万人分の雇用を創出

フランス水素協会(France Hydrogène) によると、水素産業は2030年までに国内で10万人分以上の雇用を直接・間接的に創出すると見込まれており、職業の種類は80種を上回るとの予想です。こうした需要に対応するべく、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は優秀な人材を安定して輩出できるよう、教育プログラムの改定を進めています。

2023年6月に実施されたある調査では、フランス全体で216の水素関連の人材育成プログラムが確認されましたが、こうしたプログラムの多くはペイ・ド・ラ・ロワール地域圏で実施されています。その中には資格認定を伴うものと伴わないものがあり、基礎的な職業訓練から博士課程まで、あらゆるレベルの人材育成に対応できるよう整備されています。

DEF’Hyプロジェクト

注目すべき取り組みの1つは、フランス水素協会が主導する、DEF’Hy(Développer l’emploi et les formations pour la filière hydrogène:水素産業における雇用および人材育成の開発) というプロジェクトです。これは水素技術分野を中心として、現在および将来の人材需要を分析するプロジェクトです。

人材需要は、初期の段階では新技術の開発に携わるエンジニアの需要が大きくなりますが、2028年以降は採用の比重が技能士やオペレーターに移り、これらの職種が人材需要の最大8割を占めると予想されています。

Hydrogen FH2PDLプロジェクト

ル・マン大学ナント大学の主導で2023年1~5月に実施された水素FH2PDL(Hydrogen FH2PDL)は、域内の水素産業各社が求めるスキルや人材育成プログラムの分析を目的としたプロジェクトで、優秀な人材の養成に対する当域の真剣度を示す好例です。

具体的には、域内で実施されている既存の水素関連の人材育成プログラムをリストアップすると共に、水素産業各社のニーズに対応できるよう域内で実施されているプログラムを強化するための方法を提案しました。

高等教育機関と研究施設

域内の水素関連の人材育成プログラムには、大学のみならず、それ以外の主要な教育研究機関も多数協力しています。例えば、未来の水素産業で働く人材の養成では、ソミュールのリセ・サディ・カルノ(Lycée Sadi Carnot) やナントのリセ・ラ・ジョリヴェリ(Lycée La Joliverie)といった教育機関が中心的な役割を果たしています。

また、国立ナント中央工業大学(Centrale Nantes)や国立航空技術自動車製造大学(ESTACA)をはじめとする工学教育機関が専門プログラムを実施し、ナント大学材料研究所(IMN)やナント・アトランティック電気工学研究所(IREENA)といった研究機関が最先端の研究を推進するなど、大学院生や研究者にも学びの機会が提供されています。

社会人向けの教育訓練機関

さらに、フランス国立工芸院(CNAM)とパリ交通公団(RATP)の子会社であるRATPデヴ(RATP Dev) がラ・ロッシュ=シュル=ヨンに設立したエネジー・フォルマシオン(Energy Formation)などの専門機関や、国立産業技術センター(Cetim)がナントへの設置を進めている水素特化型の国立研修施設により、域内の教育環境の強化が進んでいます。

こうした教育機関では、水素技術の専門家養成に必要な最新鋭の設備や技術プラットフォームを導入しており、水素分野の人材育成とイノベーションの最前線にあるペイ・ド・ラ・ロワール地域圏の立ち位置を盤石なものにしています。

強固な水素エコシステムと世界でも有数の人材育成プログラムが展開されているペイ・ド・ラ・ロワール地域圏は、エネルギーの未来を切り拓こうとする起業家の皆様にとって理想的な環境が整っています。域内に眠るビジネスチャンスにご興味がおありでしたら、水素産業の最新レポートをぜひご一読ください。

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